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My personal story with Heritage Guitar Inc. [音楽]

Heritage H575Custom.jpg
某国の田舎に住んでいたころ、過酷な修行をしているような毎日が続き、おかしくなりそうだった。後から考えると、実際少しおかしくなっていたのだと思う。現実逃避?のためにJazz ギターを始めようと考えた。それできちんとしたジャズギター、いわゆるフルアコを一本購入しようといろいろと調べた。これは楽器大好きな私にとってとっても楽しい作業だった。

お金が沢山あるのなら、新品の高価なGibsonを買ってしまえばよいのだが、はずかしながら手元不如意であり、ブランドはどうでもいいから、品質が高い、自分に合うものを探すことにした。しかしせっかく某国にいるのだから、安くても高品質が約束されている日本製の楽器を買うのはナンセンスだと思った。それで、米国製の楽器の中でもコストパフォーマンスが高いと思われるものを選択することにした。

浮上したのがHeritageというブランドだ。これはGibson発祥の地、Kalamazoo(インディアン語か何かなのだろうか?)で、いまも手作りで楽器を作っている会社なのだという。Webなどで調べていると、GibsonがKalamazooを去るときに、数名の職人たちが様々な理由で現地に残り、古くなったGibsonの工場を買い取って新しいブランドとして立ち上げた、という歴史を持った会社とのことであった。いまもGibsonの数々の名器を生み出した古い設備を使って、昔ながらの方法で年をとった職人たちが、若い職人たちに仕事を教えながら楽器を作り続けているのだという。なかなかいい話ではないか。いろいろと書かれている楽器のレビューに目を通してみると、手作り感のある、いい味を出した楽器を作っているという評価だった。俄然興味がわいた。

無謀にもHeritageに直接電話をしてみた。楽器を直接売って欲しいとお願いしてみた。しかし地元の代理店を通してくれないと売れない、とのこと。やはりいろいろとしきたりやしがらみがあるのだろう。仕方が無い。地元の小さな楽器屋さんに行ってみたが、”シリアスなJazz Guitarは扱いきれない”と断られてしまった。ラスベガスにある楽器屋さんから取り寄せてくれるというが、高価な楽器を触ってもみないで大金を払って購入する気にはとてもなれなかった。それで車を飛ばして3時間ほどかかる大都市に行ってみた。日本では都会生活者である私も、某国では完全な”田舎もの”であり、治安の悪い地区に知らないうちに入り込んでしまい、肌の色が濃い目の人たちに取り囲まれてヒジョーに怖い思いをした。死ぬかと思った。

それで結局車で1時間位の地方都市にあるOpenしたばかりの楽器店に行ってみた。小さな寂れたモールの一角にあるこの楽器屋さんは、鉄道会社に長く勤めたというJimという頑固ジジイがはじめた楽器屋さんで、箱物メインで高級志向のお店だった。手作りの、なんだかわけのわからないマニアックなブランドの楽器ばかり扱っている。何度か通っていろいろな楽器を見せてもらった。しかし予告なしに突然お店を閉めるので、延々と1時間ドライブしてお店が閉まっていたときはずいぶんとがっかりしたものだった。そこでHeritageを扱っていた。

あるときJimが、H575CustomをSaleに出すが、興味はあるか?と聞いてきた。それですかさず”出来がよければすぐに買うよ”と答えたところ、すぐに倉庫から楽器を出してきた。知っている人は知っているだろうが、欧米の楽器店では客が楽器を好き勝手にがんがん弾きまくる。日本のように楽器を丁寧に丁寧に扱ったりはしない。シャツのボタンやベルトのバックルでがつんがつんやりながらがんがん弾く。楽器を愛する私には、心を痛めるような恐ろしい光景が楽器屋さんで展開されるわけだ。だから楽器屋においてある売り物の楽器であっても、ぴかぴかに磨き上げられて傷一つ無い、という状態で売られているわけではない。ガツンガツン、ギコギコと毎日やられているわけなので、小さな傷が沢山ついていると思ったほうが良い。小さなへこみなど、日常茶飯事だ。

というわけで、Jimが出してきた黄金色の楽器を、日本人の陰湿な目線でしげしげと観察した。ヘッドからエンドピンまで、ねちねちと観察した。悪くないと思った。メイプルでつくったピックガードにピッキングの後が沢山ついていたけれど、これは仕方が無い。楽器は弾くものなのだから。それ以外には目立つ傷も、へこみも無いようだ。弾いてみるとジャズギターというよりも高音成分が目だつフォークギターのような音がするが、これは張ってある弦がラウンドワウンドだからだろう。これは買いだ。購入の意思を伝えると、数日で念入りに調整をしてから渡したいという。なかなかヨロシイ。いい対応だ。現金で買うといったらびっくりしていた。普通の某国人は金銭的には渋いからねえ。

こんな流れで念願のJazzGuitarをやすやすと手に入れた。約束の日は雪の中を慎重に運転し、小切手を切ってお金を払い、楽器の状態をもう一度仔細に観察してからケースに収めて、事故らないようにゆっくりと運転して自宅に帰った。そうしてケースが室温になじんでからゆっくりとあけ、心ゆくまで新しい愛器の音色を楽しんだ。この楽器はボディが全て虎杢のでたゴージャスなメイプルの単版で作られているが、これはピックアップを使うことが前提の、あまりボディが鳴らない感じの楽器にするための手法なのだろうと考える。合板は避けたいが、ボティはあまりがんがん鳴らしたくない。ハウるからね。しかしスプルース単版をトップにした楽器のような神経質さは避けたい、、、。だからトップまでメイプル?多分そうだろう。

デッドな鳴りを期待したのだが、それでもかなり大きな音で鳴る。フルアコ的というよりはフォークギター的なチリンチリンガツガツとした音だ。この印象は不思議なことだがフラットワウンドに張り替えてみても変わらなかった。好みの問題はあるが、値段と比べて望外の品質だ、と思った。ネックががっちりとして太い弦を張ってもびくともしないのがステキ。私は巨人なので、ボディが比較的小さいことだけがちょっと残念だ。しかし弾いていても、眺めていても、ステキな楽器を手に入れた、と暫くはすごく幸せな気分だった。

数日後に、Openコードをじゃらじゃらとかき鳴らしてみたところ、変な音がする。なんだか奥のほうで”ウイーン”とかいう響きが聞こえる。どこから聞こえてくるのかわからない。これは問題だ。内部を覗いてみたり、いろいろとやってみたのだが、奥のほうまでは様子がわからない。フルアコの穴は小さいからね。新品で保障が効いているうちに楽器屋さんに相談するのが得策、と判断して電話をしてみた。しかし例によってお店が閉まっている、、、。Jimが旅行に出たとかで、暫く連絡がつかず、ずいぶんとやきもきさせられた。この”ウイーン”はどんどん大きくなり、そのうちこの楽器を弾くのがつらくなってしまった。

1週間ほどして、ようやくJimと連絡が取れたので楽器を持って隣町にDrive。Garyという小柄で気のいいじいちゃんが面倒を見てくれた。いろいろとやってみたのだが、やはり原因がわからないという。この人は某国人としては人当たりがよく、仕事が丁寧で、信用できそうだと判断して楽器を任せることにした。数日後にGaryから連絡が来て、彼が言うにはトップ裏の力木がはがれているのだという。それ以外に指板などにもいくつかの問題が見つかった。残念だ。しかし外国製品を購入するときは良くあることなので、あきらめずに交換を要求した。するとJimが渋い顔をする。何故だ?結局Jimに勧められて?Heritageに直接電話をすることになった。それも店先からみんなが聞いている前でだ。結構緊張して、怪しい言葉を操ってBill(だったと思う)と交渉した。Billが言うには、”とにかく楽器を見せて欲しい。任せて欲しい””気に入らなければまた相談に乗る”とのことであった。JimがHeritageまでの楽器の搬送を引き受けてくれたので、Kalamazooに楽器を送って直してもらうことにした。”時間がかかるのは許して欲しい”というので、これは容認することにした。結局数週間待って、楽器が帰ってきた。例によって1時間運転して、楽器を取りにいってみると、これはひどい、指板もフレットもボディも傷だらけだ。誰がどんな作業をしたんだろう?満身創痍というやつだ。力木のはがれは直してくれたみたいだが、こんなになってしまった楽器を大切に弾いてゆく気にはなれなかった。再びBillに電話をし、対応をもとめた。そうすると、驚くべきことに、謝罪と共に、”気に入らないなら仕方が無い、やり直すよ”と、楽器を新しく作り直してくれるという。お礼を言って電話を切ると、Jimが言うには、”こんなこと初めてだ。ギター会社はたいてい自分たちの非を認めない”とのことであった。おそらく運が良かったのだろう。Billの機嫌が良かっただけなのかもしれないが。

2ヶ月待った。今度は楽器を直接自宅に送ってもらうことにした。

とある午後、いい加減な郵便局のいい加減なアンちゃんが、大きな汚れたダンボールをガッツンガッツンいろんなところにぶつけながら持ってきた。まさかこれが?そうだこれがオレのギターだ。びびりながら箱を開けてみた。ケースは丁寧にダンボールや発泡スチロールで保護されており、それがさらにダンボールに入っているため、おそらく中身のダメージは無いだろう。びびりながらケースを開ける。ぷーんと木のよいかほりがする。やっぱり新しい楽器は、、、ではなく、ケースのなかにマホガニーと思われるきの削りくずがたんまり入っている。木のかほりがするわけだ。何故?楽器の表面を傷つけるといけないので、丁寧に丁寧に捨てた。すると黄金色の楽器が現れた。全身虎杢びんびん、ふかい黄金色にかがやいている。工場直送だからあたりまえだが完璧なコンディションで無傷だ。さっそく弾いてみる。弦は意外なことにラウンドワウンドが張ってあり、これがHeritageの標準のようだ。ネックはあくまでもまっすぐ。フレットの処理も丁寧で指が引っかかるようなことは無い。前の楽器は指板のインレイがすこし本来の位置からずれていたのだが、今度のはほぼ完璧だ。やっぱり本物の貝はきれいだ。ラッカーを厚めに塗ってあるためか、さわるとなんだかぺとぺとしている。いい味を出している。抱きしめて奏でてみると、やはりフォークギターのような高音成分が多い、泥臭い音だ。しかしいい感じに木の音がする。ネックは今度のものはあまり太くないが、Fenderと比べて短いスケールなので全体として手になじんでくる感じだ。真新しい、木のかほりがする、自分だけのために作られた新しいJazzGuitar。最高だ。

Heritageに礼状を書き、”最高だ。死ぬまでHeritage以外のギターは買わない。”と伝えた。当然先方から連絡は来ないけれど、新しいギターを買ったことは今に至るまでない。その後何本もギターを作ったけれど。この楽器はツアーケースに入れて日本に持ち帰り、今でも片時も離さず暇さえあれば愛でている。絶対に誰にも触らせない。

ありがとう、Heritage。


タグ:ギター
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ARI Hiro

とてもいいお話ありがとうございました
by ARI Hiro (2020-11-25 23:10) 

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