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出会いと別れ [日本酒]

出会いと別れ


私が某国から帰国して、最初にお世話になったお酒屋さんで福祝を教えていただいた。これは当時の私には大きな福音で(洒落ではないよ)、暇さえあれば、もしくは酔っ払っていい時間がありさえすれば、福祝をすすっていたものだ。蔵元に伺って酒造りに使うお水を飲ませていただいたり、現地でなければ手に入らない限定酒を買わせていただいたり。ずいぶん楽しい時間を過ごさせていただいた。宴会に一本持ち込んで、みんなに喜ばれたこともあったっけ。ご亭主にはとても感謝している。しかし日本酒とつかず離れず付き合っていると、酒のキャリアだけは長いものだから、やはりどうしても頑固な自分なりの“好み”というものがはっきりとしてくる。長―い話を短くすると、私の場合は獺祭50が個人的な好みのど真ん中であることが分かった。こいつを低めの温度で冷やしてしばらく落ち着かせたものが(運んだりして空気を含ませるとずいぶん味わいが変わってしまう)、普通に手に入る日本酒の中で今のところ私の好みに最も近いのだ。正直言って恥ずかしいのだが、事実なのだから仕方がない。

私は多忙な身の上、貧乏暇なしというやつだ。遠くのお酒屋さんを明るい時間に訪れる時間も余裕もない。何とか地元で私のことを理解してくれるお酒屋さんを見つけるしかない。何としてでも私の好みをわかっていただき、力をお借りして、獺祭が手に入らないときに味わいが近いお酒を売っていただこうと、上述のお店の気のいいご亭主に私の好みを細かくねちねちと説明して協力を請うた。私はこれまでそんなことをしたことは無い。恥ずかしいからね。彼は仕事上沢山の日本酒を口にするためか、日本酒臭い、酸や苦みを感じさせるような本格的な日本酒を好むのだという。それはよくわかるが私の好みとは正反対だ。また、彼は大吟醸のような、お菓子のようなお酒は認めないとおっしゃる。私も彼のような本格派の酒吞みになりたいのだが、残念ながら最近、そうではないことを認めざるを得なくなってしまった。それでも短い人生、おいしいお酒を呑んで、憂きことが多い毎日を少しでも楽しくしたいではないか。それで恥を捨て、一生懸命私の好みを彼に説明したわけだ。実際にそういう話をしてみると、やっぱりかなり恥ずかしかった。しかしその甲斐あって、彼はにっこりとほほ笑んで一本のお酒を勧めてくれた。自信があるとおっしゃる。迷わずそいつを買って帰った。

大切に持って帰ったお酒を丁寧に冷蔵庫に寝かせ、落ち着いたころにじっくりと味わってみた。すると上立ち香からして日本酒的な薫りがぷんぷんする、苦みと酸味も色濃く残された、昔風の本格的な、しかも廉価で良心的な作りのお酒だった。彼の好意は疑うべくもないのだが、好みの違いはいかんともしがたい。つまるところ彼は自分自身がいいと思うお酒を客に勧めたに過ぎないのだろう。経時的な変化を期待して、4合瓶を丁寧に味わい尽くした。しかし味や薫りの印象が変わることは無かった。それでこのお酒屋さんから卒業することを決めた。

これからしばらくは、獺祭50が手に入る時は呑む。そうでないときは水で済ませるという毎日を送ってみようと思っている。オレ、酒なしでやっていけるかなあ。正直自信ないよ。


タグ:日本酒 獺祭
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