SSブログ

三宮 やぶそば せいろ二枚 1404エン [日本蕎麦]

三宮 やぶそば せいろ二枚 1404エン

仕事で神戸を訪れた。ここは海と山に挟まれた平地にへばりつくようにして住んでいるという、私が生まれた神奈川県に似た雰囲気を持った土地で、機会があったら住んでみたいと考えるほど好きな場所だ。心身ともに厳しかった仕事を終えて蕎麦成分の不足に苦しんでいた私を救ったのは、なんと “やぶそば” であった。デパートの中にお店を出しているようで、一時的な営業なのかもしれない。ともあれ、そうと決まればお蕎麦を食べなければ私の心も体も収まらない。後先を考えずにそそくさとお店に足を運んだ。お店はそごうデパートの2階にあり、場所を見つけるのに難儀した。しかしそこはそれ、鼻を効かせて何とか探し当てることができた。お店はかなり立派なしつらえであり、なんとなく神田の藪との関係を匂わすような雰囲気、しかしそのことがどこかに銘記されているわけではない。“東京の味”と書かれていたような気がするが、そばに飢えた私は関東にもどるまで上品に待つことなんてできないのだ。蕎麦をくれ蕎麦を。今すぐ蕎麦を!

早速お店に入り込み、テーブルに陣取った。感じのいい、小柄なので高いヒールのついた靴をはいたオネイサンに、すかさず“せいろ二枚お願いね”と注文を通した。例の“せいろにまーい”のコールはなかったようだが、その後ちょっとだけオリジナルと違うコールはなされていたようだ。蕎麦茶ではないのが残念だが、供された冷たいお水をごくごくと飲み干してお蕎麦を待った。花番さんはあまり客をよく観察していないようで、お水のおかわりは遅れがちだった。残念。それでも程なくしておいしそうなお蕎麦が供された。今日は仕事の流れなのでお酒は残念ながらなしだ。悲しいが仕方がない。四角い塗りのお盆に、真っ黒に塗られた長方形のせいろ。その中にはめ込まれた竹でできていると思われるすだれ状の部分は、神田の藪同様に上に向かって反り返っている。つまりお蕎麦の量が少ないのだ。それでも神田の三割増しくらいだろうか?蕎麦猪口と徳利、小皿は神田のものと質感が似たざっかけないもの。しかし蕎麦猪口が浅く、上に向かって開いてしまっており、これでは猪口というより深手のお皿といった趣だ。こんなのでうまくお蕎麦を食べられるのだろうか?小皿の上にはさらし葱と生山葵。両方とも見るからに新鮮で、なんだか絵のように美しい。さてさて、それではお蕎麦からお味見だ。

じっくりと眺めてみると、神田と同じような色調で、表面が穀物を感じさせるようなざらざらとした蕎麦肌。星はほとんど目立たない。緑色はやはりクロレラかな?神田よりやや太め、エッジはやや丸く、おそらく僅かに深く茹でてあるのだろう。期待せずにいつものようにお鼻クンクンしてみると、ぶわっと薫る栗のような気高い穀物の芳香。嘘だろう?薫りが強く立ち上がる復活後の藪蕎麦よりももっと強烈な薫りだ。なかなかいいぞ。しかし茹で方の違いのためか、数本手繰ってみると、歯切れやのど越しはややぼそぼそまったりとしており、個人的にはあまりよろしくない印象をうけた。味わいや舌の奥で感じる深みのある後味も、今一つ浅いように思われた。しかしおいしい蕎麦であることは間違いない。つまらない理屈をこねるのは野暮というものだ。神田よりも盛りがいいしね。それでは蕎麦ツユに移ろう、蕎麦ツユはどうかなっと。蕎麦猪口に僅かに移してみると、すでにして色合いが全く違う。つまりかなり薄いのだ。ツユの味わいを予測させるような外見だ。猪口の蕎麦ツユをじっくりとすすってみると、やはり醤油弱め、全体に薄め、まとまりもやや乏しくカツヲ感も同様。お蕎麦に比べると力が弱めの上品方向な蕎麦ツユだということを認識した。恰好は悪いがお蕎麦を蕎麦ツユに半分以上はくぐらせる必要があると決めた。

お蕎麦に行く前に薬味を。さらし葱は新鮮で繊細に刻まれており素晴らしい。生山葵も薫り高い割に辛さを感じさせない新鮮なおろしたてと思われるもの。薬味は正直に判定して神田より上をいっている。ああ、日本酒がほしいなあ、、、しかしここはぐっと我慢だ。一気に薬味をお口に放り込んで、じっくりそいつを味わった。やはりこれはスバラシイ。さてさてそろそろここらで水でお口をリセットし、魅惑の蕎麦時間に突入だ。お蕎麦の茹で方も蕎麦ツユの目指す方向性も江戸前とは若干違うが、十分に上質な蕎麦だ。蕎麦の魅力に全面的に身を委ねたところ、あっという間に二枚のせいろを手繰り終えてしまった。

蕎麦と一緒に出てきたおそらく別仕立てと思われる、しかしさっぱりとした蕎麦湯を全て呑み干し、けっこう満足してお店を後にした。神戸の江戸蕎麦、ご馳走様でした。ありがとうございました。しかし蕎麦湯はタイミングを見て、アツアツを出してほしいなあ、と贅沢をいいたがる私なのだった。

ああ、そうそう。年配のご夫婦が”エプロンください”とオーダーされていたのを思い出した。お蕎麦にエプロン、とは正直びっくりしたし、実際に紙エプロンが用意されていたのにも驚いた。こいつは関西の文化なのかもしれないし、広がりすぎたおちょこのせいなのかもしれない。なんだかおもしろく、得をした気分だった。旅行ってやっぱり面白いな、それがきつい仕事とセットであっても。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:グルメ・料理