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2022/3/12   ありし日のおもひで [雑文]

2022/3/12   ありし日のおもひで


幼少時はずっと港の見える街に住んでおり、小学生の頃は驚くべきことにわたしは“できる子“”いい子“だった。何をしても褒められることが多いので、学校は結構楽しかった。そんなある日の出来事だった。

校門を出るとすぐに並木道にでるのだが、とぼとぼと友人たちと三人で歩いていると、そこに初老の男性がふらふらとたたずんでいた。彼は寅さんみたいな毛糸の腹巻をしていた。そのなかからなんだかストローを大きくしたような透明なプラスチックの筒のようなつくりの“笛”をとりだして、ちょっとだけエッチな話をしながら下校中の小学生に話しかけてそいつを売りつけていた。結構な人気で人だかりができ、その男性は得意満面で笛を売っていたのだが、何気なく私は“学校帰りにそんな買い物すると先生が怒るんじゃないか”とボソッとつぶやいてしまった。そうしたらどうなったかというと、ものすごいことになってしまった。小声でつぶやいただけなのに。男性は顔を赤くして、“おまえはけち臭い奴だ”“オレの仕事を邪魔をするな”“先生なんて怖くないぞ”などとものすごい剣幕で私を怒鳴りつけたのだ。怒りがなかなか収まらない。いつまでも怒鳴り続ける。私は根っからの“いい子”だったので、大人に叱られることには慣れていなかったし、“正しいこと”を言って怒られたことなど当時は皆無だった。なので自分がおかれた不条理な立ち位置が理解できず、頭の中が真っ白になった。タコのように赤い顔をして大声を出しているその初老の男性から後ずさりして離れ、とぼとぼとあるいて一人で帰宅した。

もちろんいまならその男性があまり裕福ではなく、小学生相手に小商いをしていたことを理解できるし、彼は商売を邪魔した私が憎かったのだろうということも受け入れられる。しかし当時はそんなことは全く分からなかった、根っから純粋だったのだ。だから当時のわたしはずいぶん傷ついたんだろうと思う。それが証拠にその時の映像をありありと思いだすことがあるし、今でも折に触れて夢に見ることがある。傷ついた当時の自分をなんだかいとおしく感じてしまう。昔はいい子だったなあ、オレ。ずいぶん年取ったなあ、オレ。

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