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2022_11_28   ネジ穴問題 [音楽]

2022_11_28   ネジ穴問題



木材をつなげる際、伝統的にはハイドグルーが使われてきたのだと思う。膠からできているこの種の強力な接着剤は、乾燥すると縮んでかなりの力で木材同士を接着するが、熱を加えると比較的簡単にはがれるという、スバラシイ性質を備えたすぐれものだ。思うに、ヨーロッパでは、伝統的にそういうやり方で木質の楽器を作ってきたのだと思う。バイオリンとかね。長年かけて自然の(まあ動物起源だけれど)素材を使って製作するノウハウを確立しており、現在にも続いているわけだ。いまはタイとボンドが使われることもあるのかもしれないが、やはり私はハイドグルーを使うべきだろうと考える。しかるに建国200数十年程度の歴史が浅いアメリカ、というかアメリカ文化の中での楽器作りの場合、木材同士をつなげるためにねじくぎを使うという暴挙に出た。プラスチックだってお構いなしにねじくぎでつなげてしまう。これは楽器作りという見地から見ると大変乱暴な話だ、と私は思う。そもそも性質の異なる複数の木材を組み合わせること自体、無理があるというのに、木と鉄、木とプラなどのまったく性質が異なる部材を突然何も考えずに組み合わせるのはマジでやばいわけだ。少なくとも私はそう思う。なので結合する部分の周辺では、当然物理的に剛性が劣る木部が傷むことになる。古くて新しいねじ穴問題だ。伝統的な作り方に従えば、ギターだってメンテさえすれば50年や100年は持つはずなのだが、鉄で無理やり組み合わせた場合はなによりネジ穴に無理が集中する。ネックに使われるメイプルなどは、それでも比較的持つ方だが、ボディに使われるアッシュ、アルダー、ひいてはバスウッドなど、スクリュウを保持する物理的な剛性が高いとは言えないので、すぐにネジ穴が馬鹿になってしまうのだ。わかる人はわかりすぎるほどわかっていると思う。

エレキの場合、メーカーから出荷された時点で木部に雌ネジが切られてスクリュウがねじ込まれた状態になっているので、PGなどをつけ外しする場合は、これを崩さないように細かく気を遣う必要がある。スクリュウを外す場合はゆっくり丁寧にやりさえすればいいのだが、再びねじ込む場合はまずスクリュウを逆に回し、雄ネジと雌ネジの溝が合致してコトンとわずかに落ち込む角度を探してからゆっくりと優しくねじ込むことが基本になる。外した際にスクリュウのねじ込まれた場所を覚えておき、同じ形をした違う場所に使われたスクリュウを使わないことも、私の考えでは大切だ。同じロットのスクリュウであっても、微妙にネジの切られ方が違うことが珍しくないからだ。工作精度の問題なので、それを知って事に当たるべきだ。また、スクリュウの横方向にプレッシャーをかけないこととか、ねじ込む際はスクリュウが進むに任せてあまり強く押しながら回さないこととか、素材同士が固定された時点ですぐにドライバを止め、様子を見ながらわずかにダメ押しのようにねじ込み、それ以上あまりテンションをかけないこととか、ねじの使い方ひとつ取ってもいろいろノウハウがあるのだ。ビールを飲みながら楽器を触る人もいるが、とんでもない暴挙だ。以前の私自身のことだが。まあそういった知識と経験の集積が、楽器の寿命に露骨にかかわってくるのだと思う。少なくとも私はそう思っている。自分がやろうとしていることが詳しく具体的にわからなければ、手を付けずに専門家に相談することをお勧めしたい。冒険して経験値をためることを否定はしないし、自分はそうしてきたけれど。

それでも私のように何度もPGを外すような人は、いくら気を遣ってもやはりネジ穴問題に悩まされることになる。私はFender系の楽器が好きなのだが、ボディはやっぱりAshがいいし、それに慣れている。この木材、とくにSwamp Ashと呼ばれる材は、軽くてカンカンと音響特性がいいのだが、やはりネジを保持する力が弱いのだ。重くて密度が高いものを選べば状況は改善するが、そうすると今度はものすごく重く、長時間ブル下げるのはムリ、という楽器になってしまって本末転倒だ。音だって変わってしまう。重心が下がる感じ?それで、最近PGのつけ外しをしていたところ、残念ながらネジ穴が一つ怪しくなってきた。スクリュウに十分なだけのテンションがかけられないのだ。回していても、“これでいい”感じがしない。スクリュウがきっちり聞いている実感が得られないのだ。全く機能しないわけではないが、これ以上回すとやばい、という感覚が指に伝わってきて、必要なだけのテンションをかける前にねじを回すことをあきらめざるを得ない。素材と会話をすることが大切なのだ、大けがをしないためには。

この状態では、まだ雌ネジは死んでいないが、スクリュウと垂直に交わる繊維の一部が分断されつつあるため、対処が必要だ。Sonicを製造している方がどうしているかをたまたま見かけて覚えていたので、最近その手技を参考にさせていただいて手を入れてみた。結果が良かったので書いているのだが、具体的にどうするかというと、つまり、スクリュウをある程度ねじ込んで雌ネジに雄ネジをかませておいて、すこしだけ指で押し込む。こうすることで、不安定になっている雌ネジ(まあ木部そのものだが)を元の位置に戻す。これは実際に指で感じるほど動くわけではなく、“気持ちの問題”レベルの作業だ。しかし論理的にはこれはやっておくべきだろう。その後注意深く、雌ネジを傷めないようにスクリュウをゆっくりと垂直に抜いて、そのご、塗装に垂らさないように最大限気を付けつつ、ねじ穴にサラサラタイプのアロンを流し込んで雌ネジを物理的に固める。サラサラタイプなので、塗装がのっていない木部に吸収されるため、ねじ穴がふさがることはない。こうすることで、分断された一部の木材の繊維を少しでも元に戻す、ということを狙っている。そうして、作業後できれば1日以上アロンを乾燥させてから再びねじを入れる。そうしないとスクリュウが木部に張り付いて大変なことになることがあるそうだ。こういった地味な作業だが結果は上々、確かにいいみたいだ。スクリュウを回していくと、必要なだけのテンションがかかり、適切な角度でぴたりと止まって、指から“きちんと止まりました”という感覚を得ることができたので修正は成功、効果ありといえるだろう。これで今後あと何度か、PGのつけ外しに耐えてくれると思いたい、まあできるだけPGを開けるような作業はしないようにするけれども。

さて、これでもだめとなるとどうするか。ねじ穴を拡大してそれに合う木材(ダボと呼んでいいのだろうか)を加工して挿入、塗装を傷めないように注意しながら面一に削って断面を塗装、何度かこれを繰り返し、違和感がなくなるように仕上げ、その後塗装が完全に乾いたらあらたに穴をあけなおし、ここまでやってようやく新しいスクリュウを挿入、という、頭が痛くなるほど大変な作業をする必要があるのだ。以前、ストラトのヘッドにねじ込んだスクリュウが途中でなんと折れてしまい、スクリュウを取り出した後にこの作業をしたことがあった。なんだか専門家になったようで楽しかった半面、かかった時間と作業量が半端ではなかった。仕上がりはきれいにできたけれど、あまり繰り返したくはない作業だ。

ということで、ねじ穴問題、ぜひ参考にしてほしい。ねじ穴が怪しくなったらアロン1本購入をお勧めしたい。早いほどいいよ!

タグ:ネジ穴
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